食も家具も、素材と向き合いかたちを見つける ― JOZU+|豊能町

循環葬の森

「料理でたとえるなら、メニューを決めてから買い物に行くのではなく、素晴らしい鯛が手に入ったから何をつくろうかと考える感覚に近いです」

のどかな里山風景が広がる大阪府豊能町。
複合施設「JOZU+(プラス)」は、木と鉄を用いた家具づくりで知られる「上手工作所」が手がけた場所です。

目の前にある「素材」の声に耳を澄ませ、
その魅力をどうすれば最大限に引き出せるかを考える。

この場所をつくってきた徳田さんは、家具づくりにも料理にも、同じ考え方が息づいていると話します。

素材からはじまるかたち

素材との出会いから始まる、上手工作所のものづくり。その代名詞ともいえる「木と鉄」の組み合わせは、最初から意図したものではありませんでした。

東大阪に工場があった時代、体調を崩された鉄工所の方から「機械を譲り受け、鉄工もやってみないか」と声をかけられたことがきっかけだったといいます。

「最初は経験もないですし、大きな投資も必要になるのでお断りしていたんです。でも、熱心に教えてくださるということで結果的に譲り受けることになりました。あのときのご縁がなければ、ずっと木工所だけで終わっていたと思います」

木と鉄。
お互いの良さを引き出し合い、弱点を補い合うスタイルは、緻密な計画からではなく、人との出会いのなかから生まれました。

「先に形を決めることは、あまりないんです。いい素材に出会ったときに、“これをどう生かそうか”と考えることが多くて」

椅子の背面の層の違いに注目。樹齢200年以上の国産杉を厳選して杉板と合板を積層にしたもの

たとえば、1階の発酵料理「孚(ふぅ)」で使われている椅子。
建築で使われていた杉の天井板は、本来は家具には向かないとされてきました。
その薄い板も、重ねることで強度を持たせ、新たなかたちへと生まれ変わっています。

素材の個性を見極め、その特性を引き出していく。
その積み重ねが、上手工作所の家具をかたちづくっています。

社員食堂から始まった場所

JOZU+の始まりも、日々の必要から生まれました。

豊能町へ拠点を移した当初、スタッフの昼食が課題になっていたといいます。周囲には飲食店がなく、食事の選択肢が限られていたからです。

「みんな、出勤途中にコンビニなどで買ってきていたんです。プラスチックゴミがたくさん出ますし、何より不健康に感じたんです。それがどうしても気になって」

それなら、自分たちでつくろう。
そうして始まったのが、小さな社員食堂でした。

炊きたてのご飯に、味噌汁、季節の野菜のおかず。
スタッフたちも日替わりのお昼ごはんを楽しみにしており、「今日のごはんは何ですか?」「レシピを教えてください」と会話が弾むこともあったそうです。

次第に上手工作所の社員数が増え、より広い場所が必要になったことをきっかけに、現在のJOZU+の構想が立ち上がります。

「志高くレストランを始めようとしたわけではないんです。いつの間にか、話がどんどん変わって大規模なものになっていたんです(笑)」

日々の食がつくる、やさしいかたち

JOZU+には、異なる雰囲気をもつ2つのレストランがあります。

ゆっくりと食事を味わう1階の発酵料理「孚(ふぅ)」と、
気軽に過ごせる2階のカフェ&ダイニング「閑日」。

「孚(ふぅ)」の春のおしながき。地元で採れた新鮮な野菜をふんだんに使う
2階のカフェ&ダイニング「閑日」。「BOOKS+コトバノイエ」店主、加藤さんが選書した本が並ぶ
「閑日」では、季節の果実をシロップに仕立てたフルーツティーを味わえる

和食と洋食、それぞれのかたちで発酵を取り入れています。
ここ数年注目を浴びている発酵料理ですが、それを意図していたわけではありませんでした。

「私たちがここで大切にしているのは、社員食堂のときと変わらず、毎日食べても飽きない『体にやさしい食事』です。素材を一つひとつ勉強し、本当においしいと思えるものを選ぶ。その延長線上にあったのが発酵でした。

お味噌汁や漬物、ヨーグルトと、私が好きなものを挙げていったら、『それ、全部発酵食品ですね』って言われたんです」

提供される料理は、いわゆる特別な一皿ではありません。
けれど食事を終えたあと、「なんだか体が整った気がする」「ちょっと元気になった気がする」。そうした感覚がちょうどいいといいます。

この場所で食べるということ

一方で、徳田さんはこうも話します。

「ここでしか味わえない“何か”がないと、この場所でやる意味がないと思っているんです」

季節ごとにメニューを変え、できるだけ地元の旬の食材を取り入れる。
味噌を仕込み、漬物を漬ける。

この土地にあるものと向き合うことで、ここで食べる意味が立ち上がってきます。

「同じメニューを出し続けるほうが、レストランとしては運営しやすいと思います。でも、この場所でやるからこそ、季節や土地のものを大切にしたいんです」

もう一つ、大切にしているのが「ワクワク感」です。

「お味噌汁に旬のものや意外な組み合わせのものが入っていたり、糠からこんなお菓子ができるんだという驚き。

そうしたワクワク感がないと、記憶に残らない。心が少し動く瞬間がないと、面白くないんです」

「食」を通じて体感する、時間の流れ

1階の「孚(ふぅ)」で席に着くと、思わず「ふぅ」と声が漏れ出るような、解放感に包まれます。

高い天井の吹き抜け空間。
大きな窓の向こうには、季節ごとに表情を変える里山が見えます。
食事をする時間も、何かを選ぶ時間も、
どこか少しだけゆっくりと進んでいきます。

「里山の景色を見ながら食事をすることで、少し気分がよくなって、『明日から頑張ろう』と思える。そんな場所になったらいいなと思ったんです」

店内で使われている家具は、すべて上手工作所のものです。
食を通して、家具の使い心地や、その時間の積み重なりを体感する。
それもまた、この場所ならではの過ごし方です。

「多くの方は、まず食事をきっかけにこの場所を訪れます。そうして過ごす時間の中で、椅子の座り心地や、使い込まれていくテーブルの質感の変化に、ふと気づくこともあるかもしれません。

家具を買うというのは特別なタイミングですが、暮らしのどこかの節目で『あの椅子、良かったな』と、思い出してもらえたら。それが、この場所とのちょうどいい関わり方なのかもしれません」

目の前にあるものと向き合いながら、続いていく

流れに身を任せながら、目の前にある素材やご縁を大切にすること。
そこから、自分たちにしかできないかたちを見つけていくこと。

そうした積み重ねが、この場所の時間や食をつくっています。

「JOZU+を立ち上げるとき、上手工作所とはまったく別のことに感じていたんですけど、続けていくうちに、取り組んでいることは同じなんだと気づいたんです。目の前にある素材をどう生かすかを考える、その繰り返しなんだと気づいたとき、少し腑に落ちた気がしたんです。渦中にいたときは、『どうやったらいいの!?』の連続でしたけどね。

特別なことをしてきたわけではなくて、そのときどきにある素材や状況に向き合いながら、一つずつ決めてきたんだと思います。

これからも、目の前の時間や心地よさを大切にしながら、この場所なりのかたちで続けていくことを探っていきたいと思います」

里山の景色を眺めながら、ゆっくりと食事をする。
ほんの少し心が動くような、ささやかな驚きに出会う。
それが、暮らしのどこかに小さな変化を生んでいく。

ここで生まれているのは、完成された何かというよりも、
素材と時間に寄り添いながら、続いていく営みなのかもしれません。


JOZU+から徒歩5分のところには、上手工作所の工場に隣接して、店舗兼ショールームがあります。一枚板がずらりと並ぶショールームは圧巻です。

プロフィール

徳田雅代
JOZU+オーナー
2000年に東大阪で木工所「上手工作所」を、パートナーの徳田健二さんと創業。子育てをしながら工房の運営に関わり、接客や商品企画にも携わる。専門的にデザインを学んだ経験がない中で、試行錯誤を重ねながら素材や規格への理解を深め、現場と顧客の声の両方に向き合い続けている。

JOZU+
住所 大阪府豊能郡豊能町余野10‐1(📍Google Mapでみる)
営業時間 レストラン「孚」 11:00〜15:00(L.O.14:00)、カフェ「閑日」 11:00〜17:00(L.O.16:30)、家具・物販エリア 11:00〜17:00
定休日 月・火(祝日の場合営業)
ウェブサイト https://jozu-plus.com/

上手工作所
住所 大阪府豊能郡豊能町木代164-1(📍Google Mapでみる)
営業時間 11:00~17:00
定休日 月・火(祝日の場合営業)
ウェブサイト https://www.jo-zu-works.com/


文:南澤悠佳
写真:JOZU+写真提供(本文内1,8,9枚目)、左記以外Ayaka Hirokawa撮影