人生の後半をどう生きるかージャーナリングで向き合うミッドライフクライシス
自分の「これから」を考えようと、今の気持ちをノートに書き留めようとしてもペンが止まってしまう……。
キャリアの変化や子どもの独立、親の介護、そして加齢による身体的変化。人生の大きな転換期を迎えるミドル世代にとって、「このままで良いのだろうか」という不安は、ごく自然に訪れるものでもあります(※1)。
では、未来を思い描くために、こうした揺らぎとどのように向き合っていけばいいのでしょうか。2025年11月29日に開催したイベント「書く瞑想「ジャーナリング」で考える、人生の後半」から、“これからの生き方”をデザインするヒントを探っていきます。
イベントでは、AIジャーナリング・アプリ「muute(ミュート)」のプロダクトオーナー・大杉 麿睦さん、ブランドマネージャー・山内 菜々香さんをゲストに迎え、司会は循環葬®︎ RETURN TO NATURE(以下、循環葬)を手掛けるat FOREST代表・小池友紀が務めました。
ミッドライフクライシスは豊かさを見つめ直す機会

- 小池 :
- 私たちが運営している循環葬のメイン層となる50代は、「ミッドライフクライシス」という言葉に象徴されるように人生の転換期に差し掛かっています。
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- 思春期の“どうしたらいいかわからない”感覚と似ているようにも思うのですが、こうした状況に対してジャーナリングを行うことは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
- 大杉 :
- ミドルライフクライシスについて、むしろクライシス(危機)というよりは、豊かさを見つめ直す機会になるのではないかと考えています。
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- ミドル世代は10代と違い、人生経験が豊富です。迷う状況であっても、物事を多角的に見ることができます。その際、親、上司、パートナーといった社会的役割や肩書きを一旦下ろし、「素の自分」に戻る必要があるかもしれません。
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- ジャーナリングは、社会的役割や肩書きの奥にある「自分が本当に感じていること」や「大事にしたい価値観」を浮かび上がらせてくれます。次の人生のステージをどう歩むか。その方向性を描くきっかけになります。
「死」の問いかけが「生」を鮮明にする

- 小池 :
- そうした自分自身を知るきっかけとして、muuteさんでは55個の問いが書かれた「リフレクションカード」(※2)も提供されています。これには「死」をめぐる問いかけがいくつもあり、どういった意図があるのでしょうか?
- 山内 :
- たとえば、「あなたが亡くなったら、どのような人間だったとして覚えられたいですか?」といった問いですね。
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- この問いは自分の思いや価値観をより鮮明にしてくれますし、私は究極の問いだと考えています。死を考えることが、逆に「私はどう生きたいか」を考えることにつながるからです。そこから、「自分はどんな人と関わっていきたいのか」「自分が亡くなった後、何を後世に残したいのか」など、未来を形づくる価値観が見えてきます。
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- 死後まで視野を広げることは「世間からの評価」や「こうあるべき」という固定概念やノイズを削ぎ落とし、自分にとって本当に大切なものが浮き彫りになる。そのため、あえて「死」に関する問いを入れています。
過去・今・未来を、ひとつながりに

- 小池 :
- リフレクションカードの問いは、どのように考えていったのでしょうか。
- 山内 :
- 過去、今、未来と、すべての時間軸を網羅することを大切にしました。それぞれを別々の点ではなく、一本の線としてつなげるイメージです。
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- ジャーナリングも循環葬も、過ぎ去ったことを終わりにしない点が共通していると思います。過去の経験を経て、今どういう自分になっているのか。それをもとに未来に向かってどのように歩み、後世へと残していきたいのか。過去を過去のままで終わりにしないで、あえてそれを今考えてみる。それにより自分と向き合い、見つめ直していけますよね。
「手放す」ことで軽やかに、満たされる

- 大杉 :
- ジャーナリングと循環葬は、“手放す”という点でも通じるものがあると感じています。循環葬は、お墓を物理的に手放す選択肢。ジャーナリングは今の感情を書き出して手放す行為です。
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- あえて手放すことで自分の核となる思いが残り、それが本当に大切に思っていることなんだと受け入れられる。新しいものが見えてきて、未来を考えることにつながるのかと思います。
- 小池 :
- 私たちもお客さまと関わる中で、手放すことで軽やかになる姿をたくさん目にしてきました。自分の最期についてずっと不安を抱えていたけど、循環葬を選んだことをきっかけに、気になっていた習い事を始められたり、引っ越しをされたりされるなど、新しいことを始められる方が多いんですよね。
身体で向き合う紙、ひらめきを捉えるデジタル
- 小池 :
- 実際にジャーナリングをする際、紙とデジタルではそれぞれどのような違いがありますか?
- 大杉 :
- どちらにも良さがあり、役割が異なります。紙に手で書くことは、筆圧や字体の崩れも含めて、自分の思っていることを書き出す行為です。脳に刺激が入り、身体的にもスッキリするといわれています。一方、デジタルは記録しやすく、過去と現在を線で振り返りやすい。蓄積という点で大きな強みがあります。
- 山内 :
- デジタルは、移動中やノートを開きづらいときでも手軽に書けるので「この感情は残しておきたい」と思った瞬間を、逃さず記録できます。紙は手でゆっくり書けるので、じっくりと向き合って思考を整理したり、深掘りしたいときに向いています。それぞれを使い分けるのもいいですよね。
- 大杉 :
- 大切なのは、どちらかではなく「続けられるかどうか」。ご自身にとって続けやすい方法を選んでいただくのがいいと思います。
いいときも悪いときも。そのどちらも"今の自分”
- 小池 :
- ジャーナリングを続けることは、ウェルビーイングにもつながるとされています。お二人はどのように捉えていますか?

- 大杉 :
- ウェルビーイングと聞くと、「ポジティブな状態を保たなければならない」と思ってしまう方もいるかもしれません。でも、僕はネガティブな状態があってもいいと思っています。
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- 天気に晴れの日と雨の日があるように、感情にも波があるのは自然なことです。それを良し悪しで判断せず、「こういう自分もいるんだ」と受け入れていく。その姿勢が、ウェルビーイングにつながるのではないでしょうか。
- 山内 :
- 私は、心と身体のつながりをよく感じます。何も思い浮かばないときは、まずは「何も浮かばない」とそのまま書いてみる。そうすると、「どうして何も浮かばないのかな?」と自然と自分を深掘りしていけるんです。
- :
- 「単純に体が疲れているだけかも」って書き出したら、「どうして身体が疲れているんだろう?」と問いが進みます。「なぜ?」をつなげていくと、「睡眠が取れていなかった」「仕事が忙しかった」と、ジャーナリングが自動的に進んでいきます。
- :
- 無理に問いを立てたり、整理しようと頑張らなくても大丈夫です。今の状態から「なんでこうなったんだろう?」「次、こうしていきたいな」と、今頭にある感情や理想、本音を引き出していくことが大切だと思います。
- :
- また、心に目が向きがちですが、体調にも目を向けてみると自分の状態を把握しやすくなるはずです。
- 大杉 :
- ジャーナリングは「誰にも見せない」ことも、とても重要です。人が見るとなると、相手とどんなに親しい関係でも、評価されることを気にして本音が書きづらくなってしまいます。
- :
- muuteも、その“安心して書ける環境”を大切に設計しています。気にせず書けるからこそ、役割や肩書きといったフィルターを外し、「個としての自分」と向き合えます。その結果、今自分が背負っている役割や肩書きの中にも、自分の大切にしている価値観と通じる部分が見えてくることもあります。
- :
- 正解や不正解といったように「判断」をするのではなく、ありのまま思っていることを書く。それだけで、自然と自分の内側からいろんな気づきが出てくるのだと思います。
書くことをあえて“共有する”体験がもたらすもの

トークセッションのあとは、「リフレクションカード」を使い、ジャーナリング(書く瞑想)を体験するワークショップを行いました。
参加者は2人1組になり、まず55枚のカードから1枚を選びます。カードに書かれた問いについて、それぞれがノートに自分の想いを書き出し、その後、お互いがどのように考え、どんな気づきが生まれたのかを言葉にしてシェアしました。
普段のジャーナリングは、自分の内側だけで完結するものです。けれど今回は、あえて誰かと共有することで、心にどんな変化が生まれるのかも味わっていただきました。

参加者の皆さんから寄せられた声(一部)
「ワークでは初対面の方とのシェアにも関わらず、大変大きな気づきがありました。お相手の方の話をもっと聞きたいと思いました」
「自分だけで考える問いではなく、思いもよらない問いを考えていくことがとても楽しかったです。頭の声、心の声、体の声。自分にはたくさんの声があることにも気づかされました」
「知らない人同士でこんなにも深い話ができてしまうことに驚きました」
「評価や判断を手放して、ありのままに書いていく。それが心に残りました」
「自分の内面を言葉で表現することに苦手意識があったけど、シェアするのも聞くのも楽しかったです」
人生の後半をどう生きたいか
最後に、今回のイベントのテーマでもある
人生の後半をどのように生きていきたいか?
について、それぞれが静かに向き合う時間を持ちました。
ジャーナリングという行為を通じて、日頃背負っている役割を手放し、「個としての自分」と向き合う。こうした時間を少しずつでも日常的に取り入れていくことで、次の人生のステージへ進むきっかけが生まれていくのではないでしょうか。
参加者の皆さんが選んだ問いの一部
人生の後半を考えるきっかけになるかもしれません。
- あなたが一番「生きている」と感じた瞬間はいつですか?
- 「できない」と思っていたことを乗り越えた経験は何ですか?
- 自分にもっと優しくなるためには、どんなことをすればいいですか
- どんな場所でも行けるとしたら、どこに行きたいですか?
- あなたが1000歳まで生きるとしたら、どんなことを大切にして生きると思いますか?
※1
主に40代から50代が抱える、漠然とした不安や過去の経験を整理しきれないことによる自己価値観の揺らぎが「ミッドライフクライシス」として定義されている。40代、50代就労者のうち、53.0%がこうした葛藤を抱えているというデータもある(NRI「就労者の「ミッドライフクライシス」に関する調査」(2025年1月))。
※2
「muute リフレクションカード – 自分を深く知る55の問い」。詳細はこちら
登壇者プロフィール

大杉 麿睦(muute プロダクトオーナー)
大阪体育大学在学中より児童福祉事業の運営に携わる。その後、資生堂ジャパン、リクルートライフスタイル、グロービスなどでWebサービスやアプリケーションのディレクター・プロダクトオーナーとして従事。現在はNissay MIRAIQA(ニッセイミライカ)株式会社にて「muute(ミュート)」を担当。
山内 菜々香(muute ブランドマネージャー)
大学卒業後、Webマーケティング会社にて広告運用業務を経験後、独立。現在はジャーナリングアプリ「muute」のマーケティングを担当し、SNS発信やメルマガ執筆、プロダクト開発、および顧客とのコミュニケーション施策の企画・実行等に携わる。個人ではデザイン制作およびステーショナリーブランドの企画・運営も行っている。
司会:小池友紀(at FOREST 代表取締役CEO)
広告クリエイティブの世界で15年活動。ホテル、コスメ、こども園などのコピーライティング、コンセプトメイキングを手がける中、先輩や祖父母の死、両親のお墓の引越しをきっかけに、日本の墓問題と向き合う。死と森づくりを掛け合わせた循環葬を創案し、2023年夏に関西・北摂の霊場 能勢妙見山にてサービスをスタート。
文:南澤悠佳
撮影:藤原葉子
会場協力:ザ・パークレックス日本橋馬喰町6階