つくっていたら、カフェになった——未完成を楽しむ「MANDI」|館山
館山駅東口から「館山銀座通り」を歩いていくと、道路脇に遊び心あふれる看板が現れます。
矢印の先、奥まった小道の右手にあるのが、深緑の壁と赤い扉のカフェ「MANDI」です。扉を開けると、ウッディな空間にお酒や料理の本がずらりと並び、高さの異なるランプがリズムを刻む。楽しいことが始まりそうな気配が漂います。



賑やかな商店街の記憶から
この店を営むのは、渡辺昭一郎さん。18歳まで館山で暮らし、都内の放送局でディレクターとして働きながら、東京と館山の二拠点生活を続けてきました。定年を機に、長く空き家になっていた実家を1年かけてセルフリノベーション。2021年7月、カフェとして“プレ”オープンしました。

「当時はコロナ禍だったので、いわゆる本当のオープンのつもりはなかったんです。まだ、本当のオープンはしてないんですよ。そのままズルズルしてるだけで」。カフェにしたのも「つくっていたらカフェになっちゃった」と笑います。
とはいえ、この場所が人の集まる場になった背景には、子どもの頃に見ていた風景も重なっています。
「僕が子どもの頃、このあたりはメインストリートで、お店がずらっと並んでいたんですよ。今は少し寂しくなりましたが、その賑やかさを知っているので、何か力になれたらと思いました」
設計図は、ない

店内にあるものの多くは、この場所のために新しくそろえたものではありません。知人宅の解体で譲り受けたはしご、ニューヨークで暮らしていた頃に買い集めたミニチュア、家にあった料理本——。
「材料を先に集めて、どう組み合わせるか考えるんです。設計図はなく、その日その日で『今日はここをこうしてみよう』と手を動かしてきただけ」
あるものを生かしながら、少しずつ空間を整えていく。“完成”ではなく“進行形”のなかで、“カフェ”のかたちになっていきました。
メニューも進行形

“つくりながら”という姿勢は、メニューにも表れています。けれど、その軽やかさの裏には、たしかな経験もあります。
実は渡辺さんは、カフェを始める前から「自分がおいしく飲みたい」との思いでUCCのコーヒーアカデミーで学びを重ねてきました。さらに紅茶や日本茶にも向き合い、現在はUCCコーヒープロフェッショナル、日本茶インストラクター、ティーインストラクター(ジュニア)の資格を持っています。
もともと料理も好きで、外で食べておいしいと思ったものを再現するのが得意だという渡辺さん。東京で出合った味を、次の週には店で出していることもあります。

10種類ほどだったドリンクメニューは、いまでは壁一面を埋めるほどに。最初はなかったフードメニューも、「パスタを食べたい」というお客さんのひと言から始まりました。今ではフレンチトーストやクロックムッシュ、パニーニに加え、狩猟をする渡辺さんならではのジビエカレーも並びます。

ときには、近所の人が持ち寄った食材から料理が生まれることもあります。
「レモンをいただいたら、レモンマフィンにしようとか。ある金曜の夜には、『フィッシュアンドチップスが食べたい』と言っていたお客さんがナマズを持ってきたんです。面倒だから無視していたんですけどね(笑)、結局つくりました」
さらに別のお客さんがじゃがいもを持参し、その日だけの一皿ができあがったそう。決められたメニューではなく、その日の素材と会話から立ち上がる料理。ここでもまた、店は“進行形”です。
余白が場のひらきを生む

金曜は、告知のある週だけ夜営業をしています。秋からは庭で焚き火を囲むようになりました。
「『焚き火をやってみたらどうなるかな』と思い始めたんです。最初は店内で飲み食いしていた人たちが、食べ終わる頃にはドリンクを片手に庭へ集まってくる。イノシシの丸焼きをしたこともありました」
人が集まり楽しむ場をつくりたいという思いは、ペイフォワードにもつながっています。イタリアで知った仕組みをヒントに、中高生が100円でドリンクを飲めるようにしました。

「イタリアでは、お客さんが釣り銭を置いていく仕組みがあって、普段なかなかコーヒーを飲めない人が、そのお金で一杯飲めるんです。いつか自分の店でもできたらと思っていたら、ある日お客さんが『これでペイフォワードでも始めてよ』とお釣りを置いていって。
日本では、大人がそうしたかたちでコーヒーを受け取るのはなじみにくいかもしれないと考えて、高校生や中学生向けに始めました。でも、無料だとかえって利用しづらいとわかって、100円にしています。
昔は、駄菓子屋や神社は『行けば誰かがいる』場所でした。でも今は、そうした場所が減っています。そんなサードプレイスが少なくなった今、小さな居場所になれたらと思ったんですよね」
決まった型よりも、そのときの流れのままに。“コミュニティをつくろう”と理念を掲げるよりも、「ただ、やってみる」「続けてみる」。そうした日々のなかで、場が自然に“ひらいて”いきます。
訪れる人が、それぞれの時間を

MANDIでは近所の人だけでなく、ワーケーションで館山を訪れた人が一日中過ごすこともあります。庭までWi-Fiが届くため、季節のよい日は外でパソコンを開く姿も見られます。
「別に、長居してもらっていいんです。追い出すこともしませんし、好きに過ごしてもらえれば」
そんなふうに人を迎えるこの店の名前「MANDI」は、イタリアの小さな村で「チャオ」と同じように交わされる挨拶の言葉だといいます。
つくりながら、ひらいていく。
決めすぎず、閉じすぎず。
設計図を持たずに始まった店は、今日も、誰かの時間が重なっています。

渡辺昭一郎
千葉県館山市出身。都内の放送局に勤務しながら、東京と館山の二拠点生活を続けていた。1年かけて空き家だった実家をセルフリノベーション。2021年7月、「Café&Garden MANDI」をプレオープンする。同じ敷地内の「風六堂/風の図書室」開設のきっかけづくりをはじめ、中高生を対象としたペイフォワードや、「やわたんまち」に向けた子ども用祭り衣装の無料貸し出しなど、地域に根ざした取り組みを行っている。
Café&Garden MANDI
住所 千葉県館山市北条1808-4
営業時間 平日 8:00頃〜17:00頃(金曜の「あわバル」の日は21:00頃まで。Instagramでご確認ください)、土・祝日 10:00頃〜17:00頃定休日 日、月、火
文:南澤悠佳
写真:Ayaka Hirokawa