森に還し、森をつくるー能勢妙見山にみる、循環の場づくり
(循環葬は墓標ではなく)森そのものに想いをのせる。遠くから山を眺めて手を合わせてもいいし、森を歩きに訪れてもいい。本堂で静かに祈ることもできる。
循環葬®︎ RETURN TO NATURE(以下、循環葬)を運営するat FORESTのCEO小池の言葉より
「循環葬のイメージをat FORESTの小池さんから聞いて、ここを訪れる人が、どんな気持ちで森と向き合うのかを、より意識していたように思います」。
10年以上にわたって能勢妙見山の森の整備に携わる森林整備隊の川勝正彦さんは、こう振り返ります。

循環葬の第一拠点となった能勢妙見山の森は、枯れ木が並び、一斗缶やガラス片などが散乱し、放置された古い小屋もあるなど、暗く鬱蒼とした景色が広がっていました。
そんな荒れた森が、どのようにして「循環葬の森」へとかたちづくられていったのか。その道のりをたどります。
細部への配慮が導く、歩きたくなる


今では当たり前の光景となっている、木漏れ日が揺れるウッドデッキや、埋葬エリアへと続く緩やかな遊歩道。実は、設計図がない状態からはじまりました。
川勝さんと小池が何度も共に森を歩き、「ここに道があったらどうか」「デッキをつくりたいけど、どこの木を間伐しようか」と対話を重ね、森の地形と人の心地良さを両立するイメージが共有されていったのです。

川勝さん:
「循環葬で森を訪れる方は、皆さん健康な方とは限りません。階段がずっと続いてるような道はしんどいし、下ばかり見て歩いてしまう。ゆったりとした、なだらかな道なら、まわりを見渡せる余裕があって景色を見ながら歩けます」。
その考えから、
- 階段の高さは20cm以下
- 連続するのは3段まで
- 3段ごとに小さな踊り場をつくる
といった、身体への負担と景観の両方に配慮して整備が進められました。


川勝さん:
「たとえば、人の視線の高さで飛び出す枝があると、人はそれを避けて歩きます。人の動きと植物の空間をどちらも尊重しながら、歩きやすさを整えていくことが大切なんです。
また、枝を適度に落として光を入れる。薄暗いと気持ちが沈むけれど、木漏れ日が差すと歩くだけで気持ちいい。斜面は土が流れないよう、“土を抱いてる”木を適切に残しつつ、光を入れるための間伐をしています。
落葉樹は夏は影をつくり、冬は光を入れてくれるから残す。常緑樹は目隠しなどの目的で配置を考える。訪れた人が、何度でも歩きたくなる環境をつくりました」。
“森産森消”の知恵と機能美

森を整えるうえで特に大切にされたのが、森の素材を森に還す「森産森消」の発想です。
間伐材は太さがそろわないため、資材として扱いづらい一面があります。一方で、川勝さんにとっては「あるものでなんとかする」のが山での仕事の基本。外から新たな資材を持ち込むより、森の中で循環させる方が自然で効率的だといいます。そのため、伐採したヒノキの間伐材は遊歩道や土留めとして活用しました。
川勝さん:
「間伐材は皮付きのほうが自然になじむ見た目ですが、まばらに剥がれてくると見た目が悪い。皮には虫がつきやすく耐久性にも問題が出るため、今回は皮を剥くことにしました。ちょうど、水気が多くて剥きやすい時期(春から夏の盆過ぎ)に作業できたのも良かったですね」。

さらに、剥いた皮も無駄にせず、階段の隙間に詰めて土留めにするなど、細部に至るまで、あるものを活かす工夫が生かされています。

遊歩道を見ると、斜面側には間伐材が置かれていません。これは、土が流れて木を押し流すリスクを避けるためであり、同時に、左右両側に材を置くと道が狭く感じてしまう視覚的な印象への配慮でもあります。こうした随所に潜む機能美を見つけるのも、この森を歩く楽しみの一つです。
つくって終わりではなく、使いながら育てる

森の地形を活かしてつくりあげた遊歩道。一度完成しても、そこで終わりではありません。
実際の利用によって傾斜を調整したり、入口ゲートに新たな階段を設置したり。土の抜けや木のぐらつきを見つけたらその都度メンテナンスを行い、安全性と快適さを高めていきます。
川勝さん:
「新築と古いものの違いに近いんですけど、循環葬の森は古民家のように、これから“味”が出て、もっと良くなると思っているんです。
出来たときも綺麗は綺麗だけど、これが100点ではない。今はまだ50点から60点で、これから年月が経つにつれて、さらに点数が上がっていく。そういう変化を楽しめると思います」。
時間を植えて、成熟する森へ

今植える木が大きくなった50年後を想像して、この木を植えるーー。
川勝さんが携わる林業の現場では、苗木が育ち、柱などの建材として切り出されるまでに、何十年という歳月がかかります。そこにあるのは、遠い未来を前提としたまなざしです。
今整えた遊歩道も、間伐材の土留めも、森の光も。人が訪れ、想いをのせ、季節がめぐるたびに、森は少しずつ姿を変えていきます。「森に還し、森をつくる」という営みを積み重ねることで、循環葬の森は“記憶と自然がゆっくり育つ場”として未来へ受け継がれていく。
この森を歩き、そんな長い時間の流れに、そっと身をゆだねてみませんか。
プロフィール

川勝正彦(写真左から2番目)|一般社団法人 京都森林整備隊 代表理事
京都市北部で600年以上続く北山杉の栽培を父の代から受け継ぎ、林業に従事。その経験をもとに、森林の育成・管理に取り組む一般社団法人「京都森林整備隊」を設立し、幅広い森林整備を手がける。能勢妙見山の整備には、NPO法人森林再生支援センター・高田研一氏の紹介を機に携わり、以降10年以上にわたり現地の森づくりを担っている。
文:南澤悠佳