ご遺骨が「森に還る」ということ―土壌学の専門家・鈴木武志助教に聞く

森に眠ることは、未来の森を育てることにつながる――。

けれども、「ご遺骨は本当に土に還るの?」「森の環境に影響はないの?」と気になる方もいるのではないでしょうか。今回は、神戸大学で土壌学を専門とする鈴木武志助教授に、土壌とご遺骨の関係を伺いました。

「土壌」とは?

日常生活では、「土壌」と「土」の違いを意識せずに使っています。土壌学では、どのように使い分けているのでしょうか?

まず、土壌とは「母材(※1)や生物、地形、気候、そして時間という5つの土壌生成因子が関わり合い、自然のプロセスによって自律的に形づくられた『自然体』」のことです。
自然体は、英語では 「Natural Body(ナチュラルボディ)」と呼ばれており、それを日本語に訳したものです。人工的な影響でできている土壌もありますが、基本的には自然の営みによって形成されます。

有機体のようなニュアンスも含むのでしょうか。

生き物ではないですが、「生き物が関わらないとできないもの」ですね。
重要なのは、土壌は表面だけではなく、深さ1〜2メートルまで掘り下げて、その層の構造や成分、色合いをすべて含めて「土壌」と呼ぶことです。一方で、表面のわずかな土だけをすくい取ったものは「土壌」と呼びません
人でいえば、頭だけ取っても人間とはいえませんよね。土壌も表面の一部だけでは土壌とはいえない、といったようにイメージしていただくと良いと思います。

ご遺骨は土の中でどう変化していくのか

循環葬®︎ RETURN TO NATURE(以下、循環葬)では、パウダー状に粉骨したご遺骨を森の土の中に埋葬します。ご遺骨は、どのように変化していくのでしょうか?

ご遺骨の主成分はリン酸カルシウムです。高温で焼いた場合、結晶化が進んで宝石のように固い構造になりますが、ご遺骨の場合はそこまで結晶度は高くありません。
土壌が酸性であれば、リン酸カルシウムがゆっくりと溶解され、植物や微生物に利用されやすくなります。ただし、結晶度の違いによっては溶け切らない場合もあります。ご遺骨の焼却時の温度や方法にもよるので、一概にはいえません。
アルカリ性や中性の土壌では、ご遺骨はナトリウムやカリウムなどの成分が先に溶け出していくため、宝石のようなしっかりとした結晶となります。そうなると、酸性でも溶けないくらいの構造になっていきます。
写真左:土、写真右:パウダー化した遺骨(豚の遺骨)

溶け残った部分は、どうなりますか。

母材の一つとして、最終的には土壌の構造になじんでいきます。ご遺骨そのものが新しい土壌の材料の一つになる、と考えるとわかりやすいと思います。なので、溶けないからといって害を及ぼすわけではありません。
また、循環葬でご遺骨を2mm以下に粉骨してパウダー状にするのも理由があります。焼骨の成分と類似の物質が土壌中にある場合もありますので、2mm以下にした時点で土壌の構造となじんだ状態にできるからです。

森の栄養になるということ

ご遺骨の成分は、森にとってどんな役割を果たすのでしょうか?

リン酸カルシウムは生物の成長を支える重要な栄養素なので、植物や微生物の養分となり、やがては森の循環に組み込まれていきます。ただ、必ずしも生物の養分になる必要もないんです。先ほどの土壌となじむ話のように、土壌の一成分として、土壌を支えていくわけですから。

森にとってプラスなことが多いように思えますが、注意点もありますか。

一度に大量に埋葬してしまうと、土壌pH(酸性度)が低くなり、土壌環境が変わってしまいます。動植物には至適なpHがあり、現在のpHを至適とする動植物が土壌の中には生きていますが、急激な土壌pHの変化により影響を与えます。
また、塩類濃度が高くなり「塩類障害」が起きることもあります。具体的には、肥料を入れすぎた畑のように、植物がしおれてしまう状態です。したがって、土壌の微生物など森の生態系全体にストレスを与えることになります。

森にやさしい埋葬ルール

森に負担をかけないために、どのような工夫をしているのでしょうか。

もともと土壌には、外から酸性やアルカリ性のものが入ってきても、すぐには性質が変わらないようにする力があります。これを「緩衝能力」といいます。
プラスやマイナスの電気を帯びた粒子(原子や分子)を「イオン」といいます。土壌の表面はマイナスの電気を帯びていて、プラスのイオンを引きつける性質があり、さまざまなプラスのイオンを吸着しています。土壌に入ってきた成分にあわせて、プラスとマイナスのイオンを入れ替えながら、土壌pHを一定に保っているんです。
たとえば、カルシウムなどのプラスのイオンがくっついている土壌の場合、酸性の液(塩酸など)が入ってくると、イオン同士が入れ替わります。カルシウムが外に出て、中性の塩ができます。このとき、酸そのものがやわらげられるため、土壌pHは急には変わりません。
逆にアルカリ性のもの(水酸化カリウムなど)が入った場合は、水素イオンが入れ替わって水ができ、土壌pHの変化をゆるやかにします。

場合によっては、緩衝能力を超えてしまうこともありますか?

狭い範囲に多くのご遺骨を埋めると、緩衝能力を超えてしまうことがあります。
このリスクを避けるために、循環葬では埋葬する面積あたりのご遺骨の量を厳密に計算しています。実験によって土壌pHの変化を確認し、許容範囲に収まるように数値を設定しました。一度に過剰にならないよう、ゆっくりと、長い時間をかけて森と共に育むことを大切にしています。
埋葬場所を利用者(※2)が自由に選ぶのではなく、森全体の状態を見ながら管理者が場所を決めていく仕組みをとっているのもそのためです。

時間が育てるいのち

単に“人が眠る場所”ではなく、“森を育てる営み”として、埋葬が「今」と「未来」をつなぐ橋渡しのように思えます。

そうですね。今ではなく、先を見据える時間軸は、土壌学の研究をしていると当たり前に考えていると思います。
土壌生成の一つに風化があります。土壌の母材の一つである岩石は一次鉱物と呼ばれますけれども、それが土壌化を受けて風化していくと、粘土鉱物という構造のまったく異なる鉱物になります。構造がどのくらい変化したかの割合にもよりますが、風化によって土壌ができるまでには数百年はかかります。全部が変わるとなったら、おそらく千年以上はかかるでしょう。土壌ができる因子として時間が含まれているのも、そのためです。

森に還り、森の未来を育てる

長年、土壌の研究をされてきた立場から見ると、「人の営み」と「自然の循環」は、どのように調和し得ると思われますか。

私は循環葬の話を聞いたとき、「さまざまな問題を解決できる方法の一つかな」という気がしたんですよね。墓じまいは身近な問題でもあったので。
そうした個人的な動機もありますが、私は人もほかの自然に生きる生物と同じように、死んで自然に還るというのは、原始の時代から考えれば、当たり前のことだと捉えています。
ご遺骨が未来の森を育む養分、あるいは土壌の一部となり、次の命を支えていく。
それを実現しようと考えたとき、現代において火葬というプロセスを経て、埋葬場所が限られている以上、土壌に悪影響が出ないように配慮することが必要です。その部分は私たちが科学的な検証と計算を重ねているので、安心していただけたらと思います。

※1 土壌のもととなる岩石や堆積物のこと。
※2 埋葬されるご本人やご遺族

プロフィール

鈴木武志助教

循環葬®︎RETURN TO NATURE土壌環境アドバイザー
神戸大学 生命機能科学 土壌学

神戸大学にて博士(農学)取得。神戸大学農学部助手、カナダレイクヘッド大学客員研究員(1年間)を経て、2007年 神戸大学大学院農学研究科 助教に就任。土壌学、肥料学を研究分野に、廃棄物(最近では外来生物なども)から土壌や肥料などを開発し、人間や生態への安全性(重金属やマイクロプラスチックなど)や地球温暖化に与える影響(有機物の分解速度)などを研究。


文:南澤悠佳