黒子として人生の最期を支えてきた27年ー循環葬の森で働くひと vol.1
葬儀司会者として27年間、人の最期に寄り添うーー。
その経験を活かしながら、能勢妙見山で「フォレストアテンダント」として働いているのが二岡です。
循環葬®︎RETURN TO NATURE(以下、循環葬)の拠点となる森で、ご見学者さまやフォレストメイト(ご契約者さまとご家族)をご案内する役割を担い、森を訪れる方と時間をともにします。
長年、葬儀の現場で培った経験を糧に、森ではどのような想いで訪れた人と向き合っているのでしょうか。その想いを聞きました。
人生の最期に寄り添う日々
二岡さんは、なぜ葬送業界に携わろうと思われたのですか?
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- 元々は保育士になりたかったのですが、家庭の事情で断念せざるを得ませんでした。でも、落ち込んでいても仕方がない。
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- 高校卒業後の1年間は、新幹線の車内販売やバーテンダー、トラック運転手……と、さまざまなアルバイトを経験し、自分に「何が向いているか」「何が好きなのか」を探しました。
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- そのなかで「司会業」に出会い、「マイク一本で人を幸せにできる」と気づいたんです。結婚式から葬儀、選挙まで幅広く経験し、私に一番合っていたのが葬儀の司会業でした。

葬儀司会のどのような部分が「合っている」と感じたのでしょうか?
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- 司会と聞くと、前に出るのが好きな人というイメージがあるかもしれませんが、私はどちらかというと黒子に徹したいタイプなんです。
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- 葬儀は、司会がいないと進行しませんが、前に出すぎず、自然に場を支えるくらいがちょうどいい。葬儀が終わって半年ほど経った頃に、「そういえば、あの人がいたな」と思い出してもらえるくらいの存在が自分に合っていると思いました。
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- 結婚式は人生の華やかな瞬間ですが、葬儀は人生の最期に触れられる瞬間。短い時間ながらも、故人が歩んできた人生の一端に触れ、寄り添わせていただけることに大きな価値を感じました。
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- 死にはネガティブなイメージがあるかもしれませんが、今を生きるためにはすごく必要なこと。どう最期を迎えたいかを考えることは、どう生きたいかにつながる、と私は思っています。
葬送業界への葛藤の先に「ビビッ」ときた出会い

循環葬との出会いについて教えてください。
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- 2023年の春にウェブの記事で知りました。記事を見た瞬間、「ビビッ」ときて。
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- 葬儀は、本来、亡くなった人を送る時間であるはず。それなのに、故人そっちのけで遺産の話になったり、形式ばかりにこだわったりする現実を目の当たりにしていました。
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- 人が生まれてくるのと同じくらい、亡くなるときも大切なのに、なんだか違う方向にいっている……。もっとシンプルに、故人の想いを敬いながら見送ることはできないだろうか、と感じていたんです。
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- お墓に対しても同様でした。お墓に入ったら「土に還る」といわれることがあるものの、骨壺を納めるので、本当の意味で土に還っている感じがせず、どこか違和感を覚えていました。そうした葛藤を抱えていたときに読んだのが、循環葬の記事です。
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- 能勢妙見山は、よく子どもを連れて登っていた、家からも見えるなじみのある存在。親しみのある場所で、故人が自然に還るという命のあり方の原点に立ち返るような循環葬が行われることに、とても惹かれました。
そこからどんな経緯でフォレストアテンダントを務めることになったのでしょうか?
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- 兵庫県・川西エリアでコミュニティ運営をしている人が、循環葬を運営するat FOREST代表の小池さんに私を紹介してくださったんです。
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- 小池さんから「誰か、循環葬の森を案内するのにぴったりな人はいませんか?」という相談のご連絡をいただいたのですが、正直、私としてはその話を受ける前から「循環葬に関わりたい……」と、思い続けていました。それで、意を決して「私がやりたいです」と、名乗りをあげました。
訪れた方に森を感じてもらう

訪れた方をご案内する際、心がけていることはありますか?
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- 私自身、初めて循環葬の森を訪れてウッドデッキの木の椅子に座ったとき、自分の身体から「ふわ〜っ」と力が抜けて、解けていくような感覚を味わいました。だからこそ、フォレストアテンダントとして、言葉で多くを説明するよりも、まずは訪れた方ご自身に森の空気を味わっていただくことを大切にしています。
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- お客さまと一緒に時間を過ごすなかで、その方からぽろっと言葉がこぼれ落ちることがあります。こぼれ出た言葉をすくい上げ、そっと背中を押したり、その場の出来事と結びつけたり。
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- 訪れた方がご自身なりに納得でき、安心できるよう、最大限にその方の様子を感じ取るよう心がけています。

ご案内されて、特に心に残っている出来事があれば伺いたいです。
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- 先日ご案内した、50代後半の方の出来事ですね。その方は19歳くらいの頃に亡くなった人が森の中で土に還っていく様子をテレビで見て、「人はこうやって死ぬんだ」と、強く心に残っていたそうです。
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- 森にいらっしゃったとき「まさに、これだ」と、繰り返しおっしゃられていました。
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- もちろん、すべての方にとって、この森がそうした存在ではないかもしれません。それでも、ずっと求めていた場所とつなげることができたことに、私は「よかったな」と心から思いました。
森が紡ぐ「つながり」

今後、循環葬の森を訪れる方々とどのように関わっていきたいと考えていますか?
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- その方の気持ちをくみとり、ときには引っ張ったり、待ったりしながら、ご自身の理想のかたちを見つけ出してもらえるよう、お付き合いを続けていけたらと思っています。
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- 森を訪れるだけでも、森を大事にすることや、人と自然が循環し、次につながっていくことを考えるきっかけになります。私はこの森と関わるようになり、何かがここからつながって広がっていくような、自分にとっても人生のターニングポイントを迎えていると感じています。
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- 自分の生きてきた意味や、誰かのためになることに思いをはせていく。そんなつながりを、森を通してつくっていけたらと思います。
プロフィール

二岡美樹子
19歳から葬儀司会業を始め、2011年に合同会社なないろ時間を立ち上げる。セレモニー事業のほか、カフェ事業部(キッチンカー・里山カフェ)、シェアキッチン事業部(シェアキッチン・作り置き配達サービス)を展開。「食べることも死を考えることも、生きていくのに大事」という考えのもと、食の事業では川西市近郊の無農薬、減農薬の野菜を中心に、化学調味料を使用していない食事を提供する。2025年7月から、循環葬®︎RETURN TO NATURE at 能勢妙見山のフォレストアテンダントとして携わる。
文:南澤悠佳