墓じまいは何から始める?流れ・費用・トラブルを解説

自然葬を知る

墓じまいは、一体何から始めたらいいのだろう……?

「今後、墓じまいを考えないといけない」「元気なうちに、墓じまいをしておきたい」。頭ではわかっていても、いざ自分ごととなると何から手をつけるべきか迷ってしまうのではないでしょうか。

お墓を継ぐ人がいなかったり、管理や費用の負担が気になったりと、墓じまいを考える理由はさまざまです。

実際、厚生労働省の調査(※1)によると、2022年度の改葬(お墓の引っ越し)件数は過去最大の15万件超。墓じまいは今や、多くの人が直面する身近な課題となっています。

そもそも、墓じまいとはどのように進めていくのでしょうか。その基本から具体的な流れ、後悔しないために知っておきたいトラブル事例まで、わかりやすく解説します。

墓じまいと改葬の違いとは

普段、目にしたり耳にしたりする「墓じまい」。このとき、似た言葉として「改葬」という言葉も一緒に使われます。

墓じまいは、今あるお墓を撤去し、墓地管理者に墓所を返還すること。文字通り、お墓を片付けることです。

一方、改葬はお墓からご遺骨を取り出した後、別のお墓へ移すこと(お墓の引っ越し)です。

法律上、ご遺骨を勝手に取り出したり、廃棄したりすることはできません。そのため、多くの場合において、墓じまいはご遺骨を移すための改葬を伴います。

本記事では、全体の手順を「墓じまい」、遺骨を移す手続きを「改葬」として解説していきます(※2)。

墓じまいを始める前に確認したい4つのこと

あさひ行政書士法人 葉室亮介さんへの取材を元に作成

墓じまいをスムーズに進めるには、まずお墓に関する現状確認から始めましょう。あらかじめ不明瞭な点を洗い出しておくと、手続きがスムーズになります。

  • 墓の場所はどこか
  • 墓の管理主体はどこか(自治体・民間企業・寺院・その他)
  • 墓地の使用権者は誰か/誰が墓の管理費を支払っているのか
  • どなたのご遺骨を納めているのか

墓じまいの流れ|手順を解説

墓じまいの流れは、引越し先のお墓の場所や埋葬方法などで変わるほか、手続きも自治体によって異なります。ここでは、大まかな流れをご紹介します。

ステップ1:親族と話し合う

墓じまいを考えたら、まずは親族としっかりと話し合うことが大切です。お墓はその家を象徴するものでもあるため、思い入れは人それぞれです。

「事前に何も聞かされていなかった」
「勝手に決めてしまうなんて……」

こうしたすれ違いから、後々トラブルに発展するケースは少なくありません。

  • なぜ墓じまいが必要なのか
  • ご遺骨をどうしたいのか
  • どういったことが負担になっているのか

これらのことを話し合い、全員が納得して次のステップに進むことが大切です。

ステップ2:寺院・霊園に墓じまいの意向を伝える

親族間で墓じまいの合意が取れたら、現在のお墓がある寺院・霊園の管理者に墓じまいの意向を伝えます。

このとき、一方的に意向を伝えるのではなく、管理者には墓じまいに至った事情や理由を丁寧に説明しましょう。

また、現在のお墓がある寺院・霊園の管理者に「埋葬証明書」を交付してもらいます。

ステップ3:ご遺骨の改葬先(引っ越し先)を検討する

墓じまいは単なるお墓の処分ではなく、供養をする場所や形を変えるありかたともいえます。現在のお墓から取り出したご遺骨を、どのように供養するかを検討する必要があります。

<供養の選択肢の一例>

  • 新しくお墓を建立する
  • 墓碑のある永代供養にする
  • 海上に散骨する
  • 森林に埋葬する(循環葬®︎)

次の供養方法を決めたら、改葬先(引っ越し先)の管理者に「受入証明書」を交付してもらいます。

ステップ4:改葬(引っ越し先)に必要な書類をそろえる

改葬を行うには、現在のお墓がある自治体に改葬許可申請をして「改葬許可証」(ご遺骨を取り出すために必要)を交付してもらいます。

このとき、前述の「①埋葬証明書」「②受入証明書」とともに 「③改葬許可申請書」を提出する必要があります。

「③改葬許可申請書」は現在のお墓がある自治体の窓口や、公式サイトからダウンロードして入手できます。「③改葬許可申請書」の記入事項は自治体によって異なるので、実際の書類を見て様式を確認しましょう。

改葬許可証の交付は自治体によって数日かかる場合もあるため、余裕を持って手続きするのがおすすめです。

ステップ5:墓じまいをする

現在のお墓からご遺骨を取り出したら、墓石の解体・撤去工事を行い、墓地を更地に戻します。その後、墓地管理者に土地を返還します。

ステップ6:納骨する

納骨方法は、選んだ改葬先(引っ越し先)により異なります。

たとえば、循環葬®︎の場合、土壌環境アドバイザー監修のもと、ご遺骨を細かくパウダー状にして、自然循環しやすいかたちで森に埋葬します。墓地の許可を受けた寺院内の森林であるため、墓地・埋葬等に関する法律に基づいて行われます(土に撒く「散骨」ではありません)。

墓じまいの費用はいくらかかる?

墓じまい代行(応援)専門@やすだ行政書士事務所の内容を元に作成

墓じまいにかかる費用は、総額で約30万円〜100万円程度です(改葬先の費用は別途必要)。主な内訳は次の通りです。

  • 閉眼供養(※3)(寺院):2万〜10万円
  • お布施(寺院):0〜30万
  • お墓の撤去費(石材店):15〜60万円(1㎡あたり20万円程度が目安)
  • 改葬許可証など手数料(役所):数百円〜数千円

自治体によっては、墓じまいに関する補助金制度を設けており、経済的負担を軽減することができます。一度、自治体の窓口へ問い合わせてみるとよいでしょう。

墓じまいでよくあるトラブル

ライフエンディングの専門家で行政書士の葉室亮介さんによると、墓じまいのニーズの高まりを受け、その相談件数は増加傾向にあるといいます。

実際にあった、墓じまいに関するトラブルをお聞きしました。

1)親族に知らせずに墓じまいをしていた

葉室 :
墓じまいの相談で最も多いのが、親族の同意に関するものです。
以前、墓地の使用権者の相続手続きを進めていた際、親族の方から「祖母のお墓がなくなったのですが、なにかご存知でしょうか?」と聞かれたことがあります。
墓地の使用権者は「誰も墓まいりに行っていないから、親族の同意は取らなくて大丈夫」とおっしゃっていましたが、実はそうではなかったようです。
墓じまいを含め、お墓の管理におけるすべての権限は墓地の使用権者が持ちます。その方が墓じまいを希望されれば、作業自体は問題なく進みます。
ただ、もしあなたがお墓まいりに行ったときに、ご先祖様が眠るお墓がなくなっていたら、どのように思うでしょうか。
別のケースでは、墓地の使用権者から、電話ができる方には電話で事情を説明し、普段行き来のない親族には手紙を出して、丁寧に説明をしました。
「跡継ぎがいないためお墓の管理に悩んでいること、もしお墓を引き継いでくれるのであれば手続きをしたいこと、引き継ぐのが難しい場合は墓じまいを実施したいこと」を連絡し、同意を得て実施されました。
このように意思を伝える行動から始めることも大切です。墓じまいに親族の同意書が必要なわけではありませんが、ご自身だけで決めてしまうのではなく、できる限り親族に同意を得たうえで行いましょう。

2)根拠のない高額な離檀料を請求された

葉室 :
お寺のご住職に墓じまいの話をしたら、離檀料として数百万円支払うように言われたケースがあります。
このケースのご相談者さまの場合、普段行き来のあったお寺でもないし、ただお墓がそこにあっただけなのに……というお気持ちがありました。
私どもで連携している弁護士にも相談し、ご相談者さまからお寺に対し「離檀料について明確な決まりがあるのか」「規則や前例はどのようになっているのか」を確認していただきました。
その結果、明確な決まりはなく気持ちの問題であり、いくらでなければならないということはない、とのことでした。
ご相談者さまのご家族で相談いただき、常識的な金額をお支払いして無事墓じまいに至ったことがあります。
もし離檀料として提示された金額に違和感を抱かれたら、「その金額に根拠があるのか」を確認して話を進めるのがよいでしょう。
万が一、話がこじれてしまった場合は弁護士に相談するのがおすすめです。

3)ご遺骨の数が想定と違った

葉室 :
意外と多いケースが、本来納められているはずのご遺骨の数と、実際に納められていたご遺骨の数が異なることです。そのうえ、誰のご遺骨かわからない場合もあります。
稀にですが、墓地の名義貸しが発覚することもあります。
公営墓地は、その地域にお住まいの方など申込資格が定められていることが通常です。この申込資格を満たしていない人が公営墓地を利用するために、名義を借りて墓地を使用していることがごく稀にあります。墓地の使用権者はAさんであるものの、実際に納骨されていたのは名義貸しを受けたBさんの家族という、いびつな状態になっていることがあります。
いずれにしても、墓じまいをしてご遺骨を移動させる場合、原則として改葬許可証が必要になります。
改葬許可証はご遺骨一柱に対して1枚必要です。誰のものか不明なご遺骨が見つかった場合は、遺品や戸籍などから身元特定に努めますが、最後は自治体に相談しながら手続きを行います。
なお、公営や民間の墓地に納骨する際は、通常管理事務所に届出を行います。納骨だけを行い、届出を失念しているケースが多々あります。今回のトラブルのように、ご遺骨の数が記録と異なる原因となるため、必ず行いましょう。

墓じまいは手段。理想の供養から考える

葉室 :
墓じまいに積極的に動けない気持ちはわかります。でも、他の誰かが都合よく代わりにやってくれるものではありません。
“そのうち”と言っていたら、いつまでも“そのうち”はきません。気になっているなら、早めに動いたほうがいいと思います。
ご先祖様に対し、墓じまいをしていいのだろうかと悩まれる方もいらっしゃいます。ですが、管理者がいなくなり無縁墓となってしまう方が、ご先祖様にとっても悲しいことではないでしょうか。私は、墓じまいをされようと考えていること自体が、ご先祖様のことを大事にされている証だと思います。
墓じまいを進めるにあたって「親族の同意を取るのが難しい」「トラブル事例のような悩みがある」場合は、私たちのような専門家に相談していただくと、不安が解消されて進めやすくなると思います。
墓じまいはあくまで手段です。ご家族のご遺骨をどこに、どのようなかたちで納め、供養したいですか?ご自身は最期をどのように迎えたいですか?
そうした理想のあり方から考え、一つひとつ進めていきましょう。

お墓のかたちは変わっても、想いは変わらない

墓じまいは、日本の伝統的な供養文化が、現代の暮らしに合わせてかたちを変えていく中で生まれた新しい選択肢といえます

お墓のかたちは変わっても、故人を想う気持ちは変わりません。後悔しないためにも、まずは親族で話し合い、わからないことがあれば専門家に相談してみてください。

プロフィール

葉室亮介
あさひグループ共同代表/あさひ行政書士法人代表社員

島根大学法文学部卒、あさひグループの複数の法人役員を兼任。弁護士、税理士等の関連専門家との幅広いネットワークを駆使し、複雑な案件処理を得意とする相続・終活のエキスパート。
お客様の想いを聴き、その実現のためのリスク説明や代替案の提案を通じ、一歩先行く「徹底したお客様本位のサービス」を使命としている。
保険・信託を絡めた提案も数多く手掛けており、その精度の高さ故に専門家や金融機関からの相談も多い。

▶︎あさひ行政書士法人

※1
厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例」より

※2
本来的な意味でいえば、墓じまいは、ご遺骨を移す改葬というプロジェクトの中にある、一つのステップです。ただし、一連の流れ全体を「墓じまい」と表現することもあるため、本記事では全体の手順を「墓じまい」、遺骨を移す手続きを「改葬」としました。

※3
宗教により異なりますが、ご遺骨を取り出す際に閉眼供養と呼ばれるお墓から魂を抜く供養が行われます。閉眼供養と墓石の撤去は、同日に行う場合もあれば、閉眼供養を先に済ませて工事を後から行う場合もあります。

補足:改葬許可証の注意点

  • ご遺骨一柱に対して1枚ずつ必要
    • もしお墓の中にご先祖様のご遺骨が三柱(みはしら)あれば、改葬許可証は3通申請する必要があります
  • 改葬許可証が必要なタイミング
    • 石材店へ工事を依頼する際
      • 墓石の解体・撤去工事は、一般的に石材店に依頼します。契約の際に改葬許可証を提示することが多いとされています
    • ご遺骨を取り出すとき
      • 現在のお墓がある寺院・霊園の管理者に改葬許可証を提示します
    • 新しい納骨先にご遺骨を納めるとき
      • 改葬先に改葬許可証を提示し、納骨が可能となります